みなさんこんにちは、はやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。
鹿児島といえば、美味しい「黒豚料理」を思い浮かべる方が多いでしょう。トンカツ、しゃぶしゃぶ、角煮…。考えただけでもお腹が空いてきますね。 私も鹿児島の食文化は大好きです。
しかし、日々の診療で「大きないびき」や「日中の強い眠気」、つまりSAS(睡眠時無呼吸症候群)のご相談を受ける際、必ずお伺いするのが「食生活」と「体重」です。
「黒豚は好きだけど、太り気味で…」「SASと診断されたけど、食事はどうすれば?」 そんな皆様のために、今回は循環器専門医の立場から、「鹿児島の黒豚料理」と「SAS改善のための体重管理」について、前向きになれるお話をしたいと思います。
なぜ「いびき」や「無呼吸」が起こる? SASと「体重(肥満)」の密接な関係
SAS(睡眠時無呼吸症候群)は、睡眠中に気道(空気の通り道)が塞がったり狭くなったりして、呼吸が止まる(無呼吸)または浅くなる(低呼吸)病気です。
では、なぜ気道が塞がるのでしょうか。 様々な原因がありますが、日本人において最も大きな原因の一つが「肥満(体重増加)」です。
「首まわりの脂肪」が気道を圧迫する
体重が増えると、お腹や手足だけでなく、「首まわり」や「喉の奥」、「舌」にも脂肪がつきます。 私たちが寝ている時、特に仰向けになると、この余分な脂肪の重みで喉が押しつぶされ、気道が物理的に狭くなってしまうのです。 「いびき」は、その狭いところを空気が無理やり通る時の「振動音」であり、SASの重要なサインです。
SAS改善の鍵は「減量」。5〜10%の体重減少でも大きな効果が
SASの治療には、CPAP(シーパップ)という機械を使った対症療法がありますが、根本的な原因が肥満にある場合、最も効果的な治療は「減量(体重管理)」です。 研究では、体重を5〜10%減らすだけで、睡眠中の無呼吸の回数が大幅に改善することがわかっています。 例えば80kgの方なら、まずは4kg〜8kgの減量が目標です。それだけで、日中の眠気がスッキリしたり、いびきが小さくなったりする方は少なくありません。
循環器専門医が警鐘:SASの放置が高血圧や心臓病に繋がる理由
SASを「ただのいびき」と放置してはいけません。 無呼吸のたびに体は酸素不足(低酸素状態)に陥り、それを補おうと心臓は必死に働きます。これが毎晩続けば、心臓や血管にはとてつもない負担がかかります。 結果として、高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中といった命に関わる循環器疾患を合併するリスクが、健康な人の何倍にも跳ね上がってしまうのです。 体重を管理しSASを改善することは、皆様の心臓を守ることにも直結します。
鹿児島県民の皆様へ:「黒豚」を我慢する必要はありません
「SASを良くするには、大好きな黒豚をやめないといけないのか…」 そう思われた方、ご安心ください。私は「黒豚を一切食べるな」と言いたいわけではありません。それではストレスが溜まって長続きしませんからね。
黒豚は美味しい! しかし「脂質」と「カロリー」には注意
黒豚の美味しさの秘訣は、なんといっても上質な「脂身(脂肪)」の甘みと旨味にあります。 しかし、ご存知の通り、脂質は1gあたり9kcalと、タンパク質や炭水化物(どちらも1gあたり4kcal)に比べて倍以上のカロリーを持っています。 つまり、美味しい脂身は、体重管理の観点からは「高カロリー」であるという事実をまず知っておくことが大切です。
問題は黒豚そのものより「調理法」と「食べる量」
大切なのは、「何を食べるか」だけでなく「どう食べるか」です。 黒豚を楽しみながらも体重をコントロールする「賢い選択」を身につけましょう。
SAS改善のための「黒豚」との賢い付き合い方 4つのルール
SAS改善、体重管理のために、黒豚料理を食べる時に意識してほしい4つのルールをご紹介します。
ルール① 調理法:「揚げる(トンカツ)」より「茹でる・蒸す」を選ぶ
黒豚料理の代表格「トンカツ」。衣が油をたっぷり吸っており、非常に高カロリーです。 もし選べるなら、「しゃぶしゃぶ」や「せいろ蒸し」を選んでください。 これら「茹でる・蒸す」調理法は、調理の過程で余分な脂が落ちるため、同じ黒豚でも大幅にカロリーをカットできます。
ルール② 部位:「バラ肉」より「ヒレ肉・モモ肉」を選ぶ
お店でもご家庭でも、部位を選ぶ意識を持ちましょう。
- バラ肉: 脂身が非常に多く、高カロリー。しゃぶしゃぶでも脂が出やすいです。
- ロース肉: 脂身と赤身のバランスが良いですが、脂身の部分はカロリーが高いです。
- ヒレ肉・モモ肉: 脂身が少なく、赤身(タンパク質)が中心。体重管理には最適です。
トンカツを食べる場合でも、ロースカツより「ヒレカツ」を選ぶ、しゃぶしゃぶなら赤身の多いモモ肉を選ぶ、といった工夫が有効です。
ルール③ 食べ順:「ベジファースト」。野菜やキノコから先に食べる
これは黒豚に限らず、すべての食事で有効なテクニックです。 しゃぶしゃぶなら、お肉より先に、白菜、ネギ、キノコ類、豆腐などをたっぷり食べましょう。 食物繊維を先に摂ることで、
- 血糖値の急上昇を抑える(脂肪がつきにくくなる)
- 満腹感が得られやすくなる(お肉の食べ過ぎを防ぐ) という二重のメリットがあります。
ルール④ 時間:夜遅い時間の「こってり黒豚」は避ける
夜間、特に就寝前は、体がエネルギーを消費しにくく、食べたものが脂肪として蓄積されやすい「魔の時間帯」です。 夜遅くのトンカツや、脂たっぷりの角煮は、体重増加とSASの悪化に直結します。 黒豚料理のようなご馳走は、できるだけ活動量の多い「昼食」に楽しむのがベストです。夕食は就寝の3時間前までに、軽めに済ませるように心がけましょう。
黒豚以外にも注意! SAS改善のための日常の食生活アドバイス
体重管理は、黒豚との付き合い方だけで完結するものではありません。
- 「糖質」の摂りすぎも体重増加の原因: 美味しい黒豚料理には「白米」が欠かせませんね。しかし、ご飯の食べ過ぎ、ラーメンのスープまで飲む、食後のお菓子などは、脂質と同様に体重増加の原因です。
- 「早食い」はNG: よく噛まずに早食いをすると、満腹感を感じる前に食べ過ぎてしまいます。一口30回噛むくらいの意識で、ゆっくり味わって食べましょう。
- アルコールは「いびき」と「無呼吸」を直接悪化させる: お酒、特に寝る前の飲酒は、喉の筋肉を弛緩(ゆるませる)させ、気道をさらに狭くします。SASの方は原則、寝る前の飲酒は避けるべきです。
美味しい鹿児島の食を楽しみながら、健康な睡眠を取り戻しましょう
SAS(睡眠時無呼吸症候群)の改善において、体重管理は非常に強力な治療法です。 そして、鹿児島の名物である黒豚を「敵」にする必要はありません。「調理法」「部位」「食べ順」「時間」という4つのルールを守れば、美味しい食文化を楽しみながら、健康な体と睡眠を取り戻すことは十分に可能です。
無理な食事制限は長続きしません。当院では、CPAP治療などの専門的なアプローチと同時に、循環器の専門家として、皆様の食生活や運動習慣についても「続けられる」アドバイスを大切にしています。
いびき、日中の眠気、体重増加が気になる方は、SASが深刻な心臓病を引き起こす前に、ぜひ一度、はやかわ循環器内科クリニックへお気軽にご相談ください。一緒に、美味しく健康な毎日を目指しましょう。












