鹿児島市のはやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。
梅雨が明けると、鹿児島には本格的な夏がやってきます。桜島の火山灰も気になりますが、夏場は何といっても「高温多湿」との戦いですね。 「夜、暑くて何度も目が覚める」「じめじめして寝苦しい」「エアコンをつけっぱなしだと体がだるい」…そんなお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この寝苦しい鹿児島の夏が、実はSAS(睡眠時無呼吸症候群)の症状を悪化させる大きな要因になることをご存知でしょうか?
SASは、睡眠中に呼吸が止まることで体に深刻な負担をかけ、高血圧や心筋梗塞といった循環器疾患のリスクを高める病気です。 今回は循環器の専門医として、高温多湿の夏を乗り切り、SASの悪化を防ぐための「快眠のコツ」について詳しくお話しします。
なぜ鹿児島の夏は眠りが浅くなる?「高温多湿」と睡眠のメカニズム
私たちは、夜になると体温(特に体の内部の温度=深部体温)が下がることで、自然な眠気を感じ、深い睡眠に入ることができます。
睡眠の鍵は「深部体温」。暑いとなぜ体温が下がらないのか
深部体温を下げるために、体は手足の血管を広げて熱を外に逃がしたり、汗をかいたりします。 しかし、寝室の温度(室温)が高いと、体から空気中へ熱を逃がすことが難しくなります。
睡眠の質を落とす最大の敵「湿度」:汗が蒸発しないと体は冷えない
さらに厄介なのが、鹿児島特有の「高い湿度」です。 湿度が70%、80%と高くなると、汗をかいてもそれが蒸発しにくくなります。汗は蒸発する時(気化熱)に体の熱を奪ってくれるのですが、蒸発しなければ体温は下がりません。 ベタベタするだけで体温が下がらない、これが鹿児島の夏の寝苦しさの正体です。
結果として起こる「中途覚醒」と「浅い睡眠」
深部体温がうまく下がらないと、
- 寝つきが悪くなる(入眠困難)
- 深い睡眠が減り、浅い睡眠ばかりになる
- 暑さや不快感で夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
といった事態に陥ります。これでは、いくら長く寝ても疲れが取れません。
要注意! 夏場にSAS(睡眠時無呼吸症候群)が悪化する3つの理由
この高温多湿環境は、SAS(睡眠時無呼吸症候群)の方にとって、さらに深刻な問題を引き起こします。
① 高温多湿による「鼻づまり」(鼻粘膜の腫れ)が気道を狭くする
高温多湿の空気は、時に鼻の粘膜を刺激し、腫れ(うっ血)を引き起こすことがあります。また、エアコンによる冷えすぎも鼻づまりの原因になります。 SASの方はもともと空気の通り道(上気道)が狭い傾向があるため、鼻づまりが起こると、口呼吸になりやすく、いびきや無呼吸がさらに悪化してしまいます。
② 寝苦しさによる「寝相の悪化」と「CPAPマスクのズレ」
寝苦しいと、私たちは無意識に何度も寝返りを打ちます。 SASの治療でCPAP(シーパップ)というマスク(鼻や口に装着し、圧力をかけた空気を送る装置)を使用している方にとって、これは大きな問題です。 寝返りによってマスクがズレたり、外れたりすると、空気が漏れてしまい、治療効果が著しく低下してしまいます。
③ 不快感によるCPAP治療の「自己中断」という最大のリスク
「暑いのにマスクなんてつけていられない」「マスクの中が汗でベタベタして気持ち悪い」 こういった不快感から、CPAP治療を自分の判断でやめてしまう(自己中断)方が夏場に増える傾向があります。 しかし、治療を中断すれば、当然ながら睡眠中の無呼吸は再発します。これが最も危険な状態です。
循環器専門医が警鐘! 夏のSAS放置が心臓に与える二重の負担
SAS治療を中断したり、睡眠の質が低下したまま夏場を過ごしたりすることは、心臓や血管に「二重の負担」をかけることになります。
睡眠不足による交感神経の緊張と「夏場の高血圧・不整脈」
睡眠不足が続くと、体を興奮させる「交感神経」が日中も夜間も優位になります。これにより血管が収縮し、血圧が上がりやすくなります。 夏の暑さでただでさえ体にストレスがかかっているところに、SASによる睡眠不足が加わると、高血圧や不整脈のリスクがさらに高まります。
SASによる低酸素と「夜間の脱水症状」が重なる危険性
夏は寝ている間に大量の汗をかき、体は「脱水症状」になりがちです。 SASの方は、無呼吸のたびに体内の酸素が不足(低酸素状態)します。 「脱水」と「低酸素」が重なると、血液がドロドロになりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な血管事故の引き金になりかねません。
SAS患者さんのための「鹿児島の夏」快眠対策 5つのコツ
では、どうすれば鹿児島の高温多湿の夏を乗り切り、質の高い睡眠を確保できるのでしょうか。SAS患者さんに特に意識してほしい5つのコツをご紹介します。
コツ①:「もったいない」は禁物! エアコン・除湿器による「寝室の環境整備」
最も重要な対策です。「電気代がもったいない」「エアコンは体に悪い」と我慢しないでください。 SAS患者さんにとって、夏のエアコンは「贅沢品」ではなく「治療の一環」です。
- 温度: 26〜28度を目安に、ご自身が快適に眠れる温度に設定します。
- 湿度: 「除湿(ドライ)」機能を積極的に使い、湿度を50〜60%に保ちましょう。
- タイマー: 「おやすみタイマー」で寝付いた後に切る設定は、明け方に暑くなって目が覚めてしまう原因になります。朝までつけっぱなしにするか、「入タイマー」で明け方4時頃に再びONになるよう設定するのも良い方法です。
コツ②:CPAPユーザー必見! 夏場のマスク内「ベタつき・結露」対策
CPAPを使っている方は、以下の点を見直してみてください。
- 加温加湿器の設定: 冬場と同じ設定だと、外気温との差でチューブ内に結露(水滴)が発生したり、マスク内が蒸れすぎたりします。加温・加湿のレベルを少し下げてみましょう。
- マスクの清掃: 夏場は皮脂や汗でマスクが汚れやすくなります。ベタつきは空気漏れの原因にもなるため、毎朝こまめに洗浄・清掃し、清潔に保ちましょう。
コツ③:寝具の工夫。「吸湿速乾素材」の敷きパッドや枕カバーを活用
寝ている間の汗を素早く吸い取り、発散させてくれる「吸湿速乾素材(麻、冷感素材など)」の敷きパッドや枕カバーを使うと、不快感が大きく軽減されます。ベタつきを防ぐことは、寝返りを減らし、CPAPマスクの安定にもつながります。
コツ④:就寝前の「水分補給」。脱水を防ぎつつ、飲み過ぎない工夫
夜間の脱水を防ぐため、就寝30分〜1時間前くらいにコップ1杯程度の水分(水や麦茶)を摂るのは良いことです。 ただし、一度に大量に飲むと夜中にトイレに起きたくなる(夜間頻尿)ため、適量を心がけましょう。
コツ⑤:「アルコール」は控える。利尿作用と気道の弛緩を避ける
「暑いから寝る前にビールを一杯」という方も多いかもしれませんが、SAS患者さんにはお勧めできません。 アルコールは、喉の筋肉を弛緩(ゆるませる)させるため、気道が狭くなり、いびきや無呼吸を悪化させます。また、利尿作用があるため、かえって夜間の脱水を進めてしまいます。
夏の快眠は「温度・湿度管理」が鍵。SAS治療を中断しないでください
鹿児島の厳しい夏を健康に乗り切るためには、良質な睡眠が不可欠です。 特にSAS(睡眠時無呼吸症候群)をお持ちの方、またはいびきや日中の眠気が気になる方は、心臓や血管を守るためにも、睡眠環境を整えることが非常に重要です。
- エアコンや除湿器を我慢せず使い、寝室を「快適な温度・湿度」に保つこと。
- CPAP治療中の方は、不快感があっても自己判断で中断せず、設定やマスクの清掃を見直すこと。
これらを徹底するだけでも、睡眠の質は大きく改善します。
もし、「夏になってCPAPが使いにくくなった」「エアコンをつけても、いびきや日中の眠気が改善しない」といったお悩みがあれば、それは治療設定の見直しや、他の対策が必要なサインかもしれません。
当院では、循環器の専門医として、皆様の睡眠と心臓の健康をトータルでサポートしています。どんな小さなお悩みでも、お気軽に、はやかわ循環器内科クリニックまでご相談ください。












