みなさんこんにちは。
鹿児島市のはやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、寝ている間に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。単なる「いびき」の域を超え、日中の強い眠気や集中力低下を引き起こすだけでなく、高血圧、糖尿病、そして心筋梗塞や脳卒中といった重篤な循環器疾患のリスクを高めることが明らかになっています。
SASの治療法としては、専用のマスクを装着して寝る「CPAP(シーパップ)」が最も一般的で効果的ですが、すべての方がCPAP治療を快適に続けられるわけではありません。そんな時、もう一つの選択肢として検討されるのが「手術治療」です。
今回は、この睡眠時無呼吸症候群に対する手術治療について、どのような種類があり、どのような場合に手術が選択されるのか、そしてCPAP治療との関係性についても、循環器内科医の視点も交えながら分かりやすく解説していきます。
1. 睡眠時無呼吸症候群、なぜ手術が必要になるのか?
睡眠時無呼吸症候群のほとんどは、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」と呼ばれるタイプです。これは、寝ている間に、空気の通り道である上気道が狭くなったり、完全に塞がってしまったりすることで起こります。
上気道が閉塞する原因は様々で、肥満による喉の周りの脂肪沈着、扁桃腺やアデノイドの肥大、舌の付け根が大きい(舌根沈下)、顎が小さい、鼻の通りが悪いなど、人によって異なります。
手術治療の目的は、これらの物理的な閉塞原因を取り除いたり、気道を広げたりすることで、睡眠中の呼吸をスムーズにすることにあります。
2. 睡眠時無呼吸症候群の手術治療、主な種類と特徴
睡眠時無呼吸症候群の手術は、主に「気道のどこが狭くなっているか」によって選択肢が異なります。耳鼻咽喉科や口腔外科で行われることが一般的です。
(1) 咽頭部への手術
- 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP:Uvulopalatopharyngoplasty)
- 仕組み: 最も一般的な手術の一つで、のどちんこ(口蓋垂)や軟口蓋(のどちんこの周りの柔らかい部分)、扁桃腺などの余分な組織を切除・形成することで、喉の奥のスペースを広げます。
- 特徴: いびきの改善には高い効果が期待できますが、SAS自体の改善効果は個人差があります。
- 扁桃腺摘出術・アデノイド切除術
- 仕組み: 肥大した扁桃腺やアデノイドが気道を塞いでいる場合に、これらを除去する手術です。
- 特徴: 特に小児のSASの原因として最も多いのが扁桃腺やアデノイドの肥大であるため、小児のSAS治療において非常に有効な選択肢となります。
- 舌根形成術
- 仕組み: 舌の付け根(舌根)が大きく、これが気道を塞ぐ原因になっている場合に、舌根の一部を切除したり、引き上げたりして気道を確保します。
(2) 鼻への手術
- 鼻中隔湾曲症手術・下鼻甲介手術など
- 仕組み: 鼻の骨のゆがみ(鼻中隔湾曲症)や、鼻腔内の粘膜の腫れ(下鼻甲介肥大)が原因で鼻の通りが悪くなっている場合に、これらを改善する手術です。
- 特徴: 鼻の通りが悪いと口呼吸になりやすく、それがSASを悪化させる一因となるため、鼻の手術単独でSASが完全に治ることは稀ですが、CPAPの装着感を改善したり、他の手術の効果を高めたりする目的で行われることがあります。
(3) 顎顔面骨格への手術
- 顎骨前方移動術(MMA:Maxillomandibular Advancement)
- 仕組み: 上顎と下顎の骨を外科的に前方に移動させ、気道の奥行きを大幅に広げる手術です。
- 特徴: 非常に大規模な手術であり、侵襲も大きいですが、重度のSASに対して高い治療効果が期待できます。顎の骨格的な問題が原因である場合に検討されます。
(4) その他の手術・低侵襲治療
- 軟口蓋インプラント: 軟口蓋に小さなインプラントを挿入し、軟口蓋のたるみを軽減する治療法。
- ラジオ波凝固術: ラジオ波の熱で舌の付け根や軟口蓋の組織を収縮させ、気道を広げる治療法。比較的低侵襲ですが、効果は限定的です。
3. 手術治療の選択基準:誰に、どのような場合に手術が適しているのか
睡眠時無呼吸症候群の治療において、まず第一に検討されるのは「CPAP治療」です。CPAPは非侵襲的で効果が高く、多くの患者さんで症状の改善が見られます。しかし、CPAPが合わない方や、CPAPを継続できない方もいらっしゃいます。
手術治療は、以下のような場合に選択肢として検討されます。
- CPAP治療が継続困難・不耐性の場合:
- マスクの装着が苦痛で眠れない、皮膚がかぶれる、鼻や喉が乾燥するといった副作用が強い。
- 旅行や出張が多く、CPAP装置の持ち運びが困難。
- CPAP治療を試したが、効果が十分に得られない。
- 閉塞部位が明確で、手術により改善が見込める場合:
- 扁桃腺やアデノイドの肥大が明確な原因となっている場合(特に小児)。
- 顎の骨格的な後退など、解剖学的な問題が顕著である場合。
- 鼻の通りが極端に悪く、それがSASの主な原因となっている場合。
- 軽度~中等度のSASで、他の治療法(マウスピースなど)で効果が見られない場合。
手術のメリット・デメリット
| 項目 | メリット | デメリット |
| メリット | 根本的な気道の改善が期待できる。CPAPからの解放。QOLの向上。 | 侵襲性がある(切開を伴う)。回復期間が必要。合併症のリスク。 |
| デメリット | 手術後も効果に個人差がある場合がある。再発の可能性もゼロではない。 |
当院では、患者さんのSASの重症度や閉塞部位を正確に診断し、CPAP治療の適応や効果を十分に検討した上で、手術治療が選択肢となるかを判断します。必要に応じて、連携する耳鼻咽喉科や口腔外科の専門医にご紹介し、最適な治療法をご提案させていただきます。
4. 手術を受ける前の注意点と術後のケア
手術治療を検討する際は、以下の点に注意が必要です。
- 術前の詳細な検査と説明: 担当医から、手術の具体的な内容、期待できる効果、リスク、合併症、回復期間などについて、十分な説明を受け、納得した上で治療を選択することが重要です。
- 術後の効果判定と経過観察: 手術によってすべての症状が完全に消失するとは限りません。術後も睡眠検査を行い、治療効果を正確に評価します。場合によっては、CPAPやマウスピース治療との併用が必要になることもあります。
- 生活習慣改善の継続: 肥満はSASの大きな原因の一つです。手術を受けたからといって、体重管理や飲酒制限などの生活習慣改善がおろそかになると、症状が再発する可能性もあります。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、循環器疾患のリスクを高める重大な病気です。CPAP治療が第一選択ですが、すべての方に合うわけではありません。手術治療は、特定の患者さんにとっては非常に有効な選択肢となり得ます。
大切なのは、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最も効果的で、かつ無理なく続けられる治療法を見つけることです。当院では、循環器内科として、睡眠時無呼吸症候群が心臓や血管に与える影響までを考慮し、総合的な診断と治療のアドバイスを行っています。
もし、いびきや日中の眠気、高血圧などでお悩みでしたら、まずははやかわ循環器内科クリニックにご相談ください。皆様の健康な睡眠と、安心できる毎日をサポートいたします。












