鹿児島の農業を支える皆様へ。その「眠気」、夏の疲れや歳のせいだと思っていませんか?

こんにちは。はやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。

鹿児島の豊かな大地を耕し、私たちの食を支えてくださっている農業従事者の皆様に、心から敬意を表します。天候を読み、作物の声を聞きながらの毎日のお仕事、本当にご苦労様です。

さて、そんな皆様の中には、 「トラクターの運転中に、一瞬ヒヤリとするほど眠くなる」 「日中の作業中、どうしようもない眠気に襲われる」 「昼食後、1時間以上ぐっすり昼寝しないと体がもたない」 といった経験をお持ちの方はいらっしゃいませんか?

「夏場は早朝から働いているから疲れているだけ」 「もう歳だから、眠くなるのは仕方ない」

そう思って、その眠気を「職業柄仕方ないもの」として諦めてしまっていませんか?

もし、その症状が単なる疲れや加齢ではなく、「SAS(睡眠時無呼吸症候群)」という病気が原因だとしたら…? そして、その「間違った休憩のとり方」が、かえって健康を害し、危険を招いているとしたら…?

循環器の専門医として、鹿児島の農業を支える皆様に、ぜひ知っておいていただきたい重要なお話です。

そもそも「SAS(睡眠時無呼吸症候群)」とは?

SAS(サス:Sleep Apnea Syndrome)とは、その名の通り、睡眠中に呼吸が止まる、または浅くなることを繰り返す病気です。

眠ると喉の奥(気道)が狭くなり、空気が通りにくくなることで起こります。 代表的なサインは「大きないびき」です。ご家族から「いびきがうるさい」「寝ている時に呼吸が止まっているよ」と指摘されたことはないでしょうか。

呼吸が止まると、体の中は酸素不足(酸欠状態)になります。体は危険を感じて、眠っているつもりでも無意識に目を覚まそうとします。 その結果、睡眠の質が極端に悪化。いくら寝ても疲れが取れず、日中に我慢できないほどの強烈な眠気や倦怠感となって現れるのです。

それだけではありません。 SASによる酸欠状態は、心臓や血管に大きな負担をかけ続けます。その結果、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、不整脈といった、命に関わる循環器疾患のリスクを大幅に高めてしまう、非常に怖い病気なのです。

なぜ「農業従事者」にSASのリスクが潜んでいるのか?

農業という職業は、SASのリスクを高める要因が重なりやすい環境にあります。

  1. 早朝からの労働と不規則性 天候や作物の生育状況に左右され、特に夏場は涼しい夜明け前から作業を開始することも多いでしょう。このように、まとまった睡眠時間が確保しにくい生活は、SASの症状を悪化させやすくなります。
  2. 体力仕事と食生活(体重増加リスク) 「体力仕事だから、しっかり食べないと」と、ご飯(炭水化物)を多めに食べたり、塩分や脂質の多い味の濃い食事が中心になったりしていませんか? また、仕事終わりの晩酌(飲酒)も、喉の筋肉を緩ませるためSASを悪化させます。 こうした習慣は、SASの最大の原因である「肥満(特に首回りの脂肪)」に直結しやすいのです。
  3. 気づきにくい環境 日中、広大な畑やハウスで一人で作業することが多いと、ご自身の眠気や集中力の低下が問題として表面化しにくいかもしれません。また、「いびきがうるさい」とご家族と寝室を別にしていると、ご自身の無呼吸の状態に誰も気づけない、というケースも非常に多いです。

【最重要】農作業とSAS:間違った「休憩・睡眠」が招く危険

私が循環器専門医として最も懸念しているのは、SASが引き起こす「事故のリスク」と、良かれと思ってとっている「間違った休憩」です。

危険1:農作業中の重大事故リスク

SASによる日中の強烈な眠気、集中力の低下は、皆様の作業に重大な危険をもたらします。

  • トラクターやコンバイン、軽トラックの運転中の一瞬の居眠り。
  • 草刈り機や選定バサミ、チェーンソーなど、危険な農機具の操作中のミス。

これらは、取り返しのつかない大怪我や事故に直結します。

危険2:「昼寝」の大きな落とし穴

SASの方は夜にぐっすり眠れていないため、日中、特に昼食後に強烈な眠気に襲われます。 そこで、「30分以上、横になってぐっすり昼寝」をしていませんか?

実は、これが大きな落とし穴です。

  • SASの悪化: 30分以上の深い昼寝は、夜の睡眠の質をさらに悪化させ、SASを重症化させる悪循環を生みます。
  • 体への負担: そもそもSASの方は、昼寝中も「無呼吸」を起こしています。体を休ませているつもりが、実際には心臓や血管に負担をかけているのです。
  • 作業の危険: 長い昼寝から起きた直後は、頭がぼーっとして(睡眠慣性)、かえって午後の作業が危険になることもあります。

危険3:早朝の循環器リスク

SASは高血圧の大きな原因です。早朝から血圧が高い状態で、日の出とともに畑に出て体力仕事(特に寒い時期の急な作業)を始めると、心臓や血管への負担は計り知れません。

農家さんへ推奨する「正しい休憩・仮眠法」

もちろん、日中の眠気対策は必要です。SASの根本治療が最優先ですが、まずは日中の安全対策として「正しい仮眠法」を実践してください。

それは「パワーナップ(積極的仮眠)」と呼ばれる方法です。

【正しい仮眠(パワーナップ)のとり方】

  • 時間は15分~20分以内にする。(30分以上はダメ)
  • 「横にならず」、椅子や軽トラックの運転席を倒して座ったまま目を閉じる。
  • 仮眠の直前にコーヒーやお茶などカフェインを摂ると、起きる頃(約20分後)にシャキッとしやすくなります。

この短時間仮眠こそが、午後の作業効率と安全性を高める最も良い方法です。

SASの検査と治療法

「もしかして自分も?」と思ったら、まずは検査が必要です。 当院では、ご自宅で(もちろん農作業のスケジュールに合わせて)行える「簡易検査」をご案内しています。機械を持ち帰り、手の指や鼻に小さなセンサーをつけて一晩寝ていただくだけで、睡眠中の呼吸の状態がわかります。

検査でSASと診断された場合、最も効果的な治療が「CPAP(シーパップ)療法」です。 これは、寝る時に専用のマスクをつけ、機械から送られる空気の圧力で気道を広げ、呼吸が止まるのを防ぐ治療法です。 多くの方が、治療を始めたその日からいびきが止まり、「こんなに熟睡できたのは何年ぶりか」と驚かれます。

まとめ:鹿児島の「実り」を守るために、ご自身の健康を守りましょう

SASは「働き者の証」でも「歳のせい」でもありません。治療が必要な「病気」です。

正しい治療を受ければ、日中の強烈な眠気は劇的に改善します。それは農作業の安全性を高めるだけでなく、仕事の効率を上げ、ひいては将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクを避けることにもつながります。

皆様が大切に育てている鹿児島の「実り」を守るためにも、まずはご自身の健康を守ることから始めてみませんか?

「家族にいびきを指摘された」「昼間の眠気がどうにも取れない」 そう感じたら、決して放置せず、お気軽に当院、はやかわ循環器内科クリニックにご相談ください。 皆様が明日も元気に畑に出られるよう、全力でサポートさせていただきます。

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