皆さん、こんにちは。
はやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。
鹿児島といえば、やはり焼酎。「一日の疲れを癒やす『だいやめ』が何よりの楽しみ」という方も、きっと多いことでしょう。私も、この地域の温かい文化が大好きです。
みなさんの中には「お酒を飲むとよく眠れる」「寝る前に一杯飲まないと寝付けない」と感じている方はいらっしゃいませんか?
「寝酒」は、一見すると睡眠の手助けになるように思えます。しかし、循環器内科医の立場から申し上げると、その習慣が皆さんの睡眠の質を著しく低下させ、さらには心臓や血管に深刻なダメージを与える「ある病気」のリスクを高めている可能性があるのです。
今回は、鹿児島の焼酎文化とも関わりの深い「お酒と睡眠」、特に「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」との危険な関係について、詳しく解説していきます。
なぜ「寝酒」は睡眠の質を低下させるのか?
アルコールには入眠作用があるため、飲んですぐは確かに寝つきが良くなります。問題は、その後です。
体内でアルコールが分解されると、「アセトアルデヒド」という物質が作られます。このアセトアルデヒドには覚醒作用があり、交感神経を刺激してしまいます。
その結果、寝酒をしてから数時間後、ちょうど睡眠の後半(明け方頃)に目が覚めやすくなるのです。これを「中途覚醒」と呼びます。
さらに、アルコールは「レム睡眠(浅い眠り)」を増やし、「ノンレム睡眠(深い睡眠)」を減らしてしまいます。深い睡眠が取れないと、脳も体も十分に休むことができません。
「昨夜も飲んでぐっすり寝たはずなのに、朝からどうも疲れが取れない…」 もしそう感じているなら、それは「寝酒」によって睡眠の質が低下しているサインかもしれません。
最大の懸念:アルコールが「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を悪化させる理由
そして、寝酒がもたらす最大の問題が「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の悪化です。
睡眠時無呼吸症候群とは、文字通り、睡眠中に呼吸が止まったり、浅くなったりすることを繰り返す病気です。
ご家族から「いびきがうるさい」「呼吸が止まっているよ」と指摘されたことはありませんか?
アルコールには「筋弛緩作用(きんしかんさよう)」、つまり筋肉を緩ませる働きがあります。 お酒を飲むと、喉(のど)や上気道(空気の通り道)の筋肉も緩んでしまいます。
すると、ただでさえ寝ている時は筋肉が緩んでいるのに、アルコールの力でさらに気道が狭くなり、空気が通りにくくなります。 その結果、いびきがひどくなり、呼吸が止まる回数や時間が増加してしまうのです。
普段はSASの症状がない方でも、飲酒した日だけSASを発症することもあります。「寝酒」は、SASのリスクを直接的に高める非常に危険な習慣と言えます。
SASが心臓と血管に与える深刻なダメージ
「たかがいびき」「呼吸が止まると言っても、またすぐ再開するから大丈夫」 そう思ってSASを放置していると、命に関わる事態を招きかねません。
なぜ、私たち循環器内科医がSASの治療に力を入れているのか。それは、SASが心臓や血管の病気に直結しているからです。
睡眠中に呼吸が止まると、体内の酸素濃度が低下します。すると、体は「緊急事態だ!」と判断し、交感神経を興奮させます。心臓はなんとか酸素を全身に送ろうと必死に働き、その結果、血圧が急上昇します。
これが一晩に何十回、何百回と繰り返されるのです。 特に、本来は血圧が下がるべき夜間や早朝に血圧が高い状態が続くと、血管は常に張り詰めた状態となり、動脈硬化が進行します。
その結果、SASの患者さんは、健康な人と比べて
- 高血圧
- 不整脈(特に心房細動)
- 心不全
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- といった循環器疾患を発症するリスクが、数倍にも跳ね上がることがわかっています。
鹿児島で「焼酎」と上手に付き合っていくために
私は、鹿児島の皆さんに「焼酎をやめましょう」と言いたいわけではありません。大切なのは、健康に「だいやめ」を楽しむための「上手な付き合い方」です。
まずは、ご自身の睡眠を見直してみてください。
- 家族に「大きないびき」や「呼吸の停止」を指摘された
- 日中、会議中や運転中に耐え難い眠気に襲われる
- 朝起きた時に頭が痛い、スッキリしない
- 夜中に何度もトイレに起きる(※SASによる低酸素が原因の場合があります)
これらに当てはまる方は、SASの可能性があります。
お酒を楽しむ際は、「寝酒」として飲むのは今日からやめましょう。お酒は、できれば「就寝の3時間前まで」に、夕食と一緒に楽しむのが理想です。 そして、焼酎を飲む際は、同量のお水(チェイサー)を一緒に飲むことを心がけ、深酒を避けることも大切です。
気になる「いびき」は循環器内科へご相談を
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病と密接に関連しています。「いびき」は、単なる音の問題ではなく、体からの重要なSOSサインなのです。
SASは、ご自宅でできる簡易検査で診断が可能です。そして、CPAP(シーパップ)療法という非常に有効な治療法もあります。適切な治療を行えば、睡眠の質は劇的に改善し、日中の眠気も解消されます。
何より大切なのは、SASを治療することが、将来の高血圧や心筋梗塞、脳卒中といった深刻な病気の予防に直結するということです。
「最近、血圧が高くなってきた」「いびきを指摘された」という方は、ぜひ一度、私たち地域のかかりつけ医にご相談ください。
はやかわ循環器内科クリニックは、鹿児島の皆さんが大好きな焼酎と、そして何よりご自身の「心臓」と末永く健康に付き合っていけるよう、全力でサポートいたします。












