こんにちは、鹿児島市のはやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。
車社会である鹿児島において、自動車の運転は私たちの生活に欠かせないものです。しかし、そのハンドルを握る上で、決して無視できないのがご自身の健康状態です。特に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、時として重大な交通事故につながる”見えない危険”をはらんでいます。
今回は、SASと運転免許制度との関わりについて、ドライバーの皆さんに必ず知っておいていただきたい大切な情報をお伝えします。
なぜSASが運転に危険なのか?:自分では気づけない「眠りの瞬間」
SASの最も恐ろしい症状の一つが、日中の耐えがたい眠気です。夜間に質の良い睡眠がとれていないため、脳は常に休息を求めている状態にあります。
特に単調な状況になりやすい高速道路などの運転中は、「マイクロスリープ」と呼ばれる、本人も気づかない数秒間の瞬間的な眠りに陥ることがあります。時速60kmで走行中、わずか3秒眠りに落ちただけで、車は50メートルも無人のまま進む計算になります。これが重大事故につながることは、容易に想像がつくでしょう。
研究データによれば、治療をしていない重症のSAS患者さんの交通事故率は、健康な人の2.4倍にものぼると報告されています。
運転免許制度との関わり:改正道路交通法について
このような背景から、平成26年(2014年)6月に道路交通法が改正され、居眠り運転につながる病気に対する規制が強化されました。
免許の取得や更新に行かれた際、「病気の症状等に関する質問票」に回答した経験があると思います。その中には、「過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に眠り込んでしまったことが週3回以上ある」といった項目があります。これは、まさにSASが引き起こす症状を念頭に置いた質問です。
この質問票には正直に回答する義務があり、もし虚偽の申告をして事故を起こした場合、罰則が科される可能性があります。
【最重要】「病気を申告したら免許を取り消される」は大きな誤解です
このお話をすると、「正直に申告したら免許を取り上げられてしまうのでは?」と心配になり、受診をためらってしまう方がいらっしゃいます。しかし、それは全くの誤解です。
この制度の目的は、病気の人から免許を没収することではありません。「病気の症状によって安全な運転に支障がないか」を確認し、危険な状態のドライバーがいないようにするためのものです。
つまり、睡眠時無呼吸症候群と診断されたとしても、 【CPAP治療などによって日中の眠気が解消され、安全に運転できる状態である】 と医師が判断すれば、運転を継続することに全く問題はありません。
むしろ、症状を隠して治療を受けずに運転を続けることこそが、免許取り消しや事故につながる最大のリスクなのです。
では、ドライバーとしてどう向き合うべきか?
ご自身やご家族の安全、そして社会に対する責任を果たすため、以下のステップで対応することが求められます。
- ステップ1:症状を自覚したら、まず専門医に相談・検査を受ける いびきや日中の眠気を自覚している、あるいはご家族から指摘された場合は、速やかに当院のような専門機関を受診してください。
- ステップ2:診断されたら、CPAPなどの治療を誠実に開始・継続する CPAP治療は、SASによる日中の眠気に対して極めて高い改善効果があります。毎晩しっかり治療を続けることが、安全運転の絶対条件です。
- ステップ3:公安委員会から求められた場合、医師の診断書を提出する 質問票への回答などにより、公安委員会(警察)から診断書の提出を求められることがあります。その際は、私たちが「CPAP治療により症状はコントロールされており、運転に支障はない」旨の診断書を作成しますので、ご安心ください。
バス、トラック、タクシーなどプロドライバーの方へ
乗客の命を預かったり、物流を支えたりするプロのドライバーの皆様は、より一層高い安全意識が求められます。近年、多くの運送会社やバス会社でSASのスクリーニング検査が義務化されているのはそのためです。治療は、ご自身の免許とキャリア、そして社会的な信用を守るために不可欠な責務であるとお考えください。
正直な申告と適切な治療が、免許と命を守る
SASの症状を自覚しながら、免許が心配で医療機関から遠ざかる…。その選択が、結果的に最もご自身を危険にさらし、免許を失うリスクを高めてしまいます。
以上の内容は議論もされているものも多く、今後制度が整っていくものと思います。
業務などに活用する場合は関係機関にご相談ください。
正しい知識を持ち、ご自身の症状と正直に向き合い、適切な治療を受けること。それが、あなたご自身の命、大切な人の命、そしてハンドルを握る者としての社会的責任を果たす、唯一かつ最善の道です。心配なことがあれば、一人で悩まず、ぜひ私たち専門医にご相談ください。












