こんにちは、鹿児島市のはやかわ循環器内科クリニック院長の早川です。
源泉総数で全国2位を誇る、まさに「温泉天国」である私たちの故郷、鹿児島。仕事帰りに、休日に、気軽に温泉に立ち寄れるのは、本当に素晴らしい文化ですよね。この「温泉が体に良い」というのは誰もが感じることですが、実は「睡眠の質」という観点からも、非常に理にかなった健康習慣なのです。
今回は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療と、鹿児島の宝である温泉をどう結びつければ、より良い睡眠につながるのか、その医学的な理由と賢い入浴法についてお話しします。
なぜ温泉が「睡眠の質」を高めるのか?3つの医学的理由
心地よい温泉が眠りを誘うのには、しっかりとした科学的な理由があります。
理由①:深部体温のスイッチ効果
私たちの体は、脳や内臓といった体の中心部の温度「深部体温」が下がるタイミングで、自然な眠気が訪れるようにできています。温泉に入ると、まずこの深部体温が一時的にぐっと上がります。そして、お風呂から上がって90分ほどかけてゆっくりと体温が下がっていく。この体温が下がるスイッチが、脳に「さあ、眠る時間ですよ」という強力な合図を送ってくれるのです。
理由②:自律神経のリセット効果
私たちの体は、日中の活動的な「活動モード(交感神経)」と、夜間の休息的な「リラックスモード(副交感神経)」を自律神経が切り替えることでバランスをとっています。ストレスや不規則な生活でこの切り替えがうまくいかないと、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。 38~40℃程度のぬるめの温泉にゆったりと浸かることは、このスイッチをスムーズに「リラックスモード」へと切り替え、心身を眠りに適した状態に導いてくれます。
理由③:心身の緊張をほぐす効果
温泉の温かいお湯は血行を促進し、凝り固まった筋肉の緊張を和らげてくれます。また、お湯の中では浮力が働くため、体を支える筋肉や関節が重力から解放されます。こうした体のリラックスが、心の緊張をも解きほぐし、穏やかな気持ちで眠りにつく手助けをしてくれるのです。
【重要】SAS治療と温泉入浴の”相乗効果”
ここで一つ、非常に大切なことをお伝えします。それは、温泉はあくまで睡眠の質を高める手助けをするもので、SASという病気そのものを”治す”わけではない、ということです。
気道の閉塞が原因であるSASの根本的な治療は、CPAP療法やマウスピース治療といった医学的なアプローチが不可欠です。
では、温泉の役割は何か。それは、治療効果を最大限に引き出すための強力な「補助療法(サポート役)」です。 CPAPで「安全な呼吸」を確保し、温泉で「質の良い眠りに入りやすい心身の状態」を作る。 この二つが組み合わさることで、治療の相乗効果が期待できるのです。体がリラックスしていれば、CPAPのマスク装着への抵抗感も和らぎ、よりスムーズに治療に慣れていくことにも繋がるでしょう。
睡眠の質を高める、賢い温泉の入り方
せっかくの温泉も、入り方を間違えると逆効果になることも。睡眠の質を高めるためのポイントをご紹介します。
- タイミング:就寝の90分~2時間前が、深部体温のスイッチ効果を最も活かせるゴールデンタイムです。
- 湯の温度:42℃を超えるような熱いお湯は、体を「活動モード」にしてしまい、目が覚めてしまいます。38~40℃のぬるめのお湯に10~15分ほど、ゆったり浸かるのがおすすめです。
- 水分補給:入浴で汗をかくと、体は水分不足になります。脱水は睡眠の質を落とす原因にも。入浴の前後には、コップ一杯の常温の水やお茶を飲む習慣をつけましょう。
- 飲酒後の入浴は厳禁:血圧の急変動や脱水、転倒のリスクがあり非常に危険です。絶対にやめましょう。
鹿児島の恵みを、日々の健康づくりに
CPAP治療という医学的な主軸をしっかりと立てた上で、私たちの郷土が誇る温泉という素晴らしい生活習慣を日々に取り入れる。これは、温泉天国・鹿児島に住む私たちだからこそできる、理想的な睡眠ケアの形です。
鹿児島の豊かな恵みを上手に活用し、心身ともに健やかな毎日を送っていきましょう。もちろん、いびきや日中の眠気など、睡眠に関するお悩みがあれば、いつでもお気軽に当院へご相談ください。












