糖尿病リスクを高める「睡眠時無呼吸症候群」?知られざる関連性と予防法

みなさん、こんにちは。院長の早川です。

糖尿病は、高血圧と並んで日本の代表的な生活習慣病であり、鹿児島市でも多くの方が治療や予防に真剣に取り組んでいらっしゃいます。「食事や運動に気をつけているのに、血糖値がなかなか下がらない」「糖尿病の合併症が心配だ」といったお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

実は、そのような血糖コントロールの難しさの背景に、前回のブログでも取り上げた「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」が関係しているケースが少なくないのです。一見、関係なさそうに思えるかもしれませんが、SASは糖尿病の発症リスクを高め、また、すでに糖尿病をお持ちの方の血糖コントロールを悪化させる重要な要因となり得ます。

今回のブログでは、この睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の「知られざる関連性」について、そのメカニズムから予防・対策まで、詳しく解説していきます。

まずは「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」のおさらい

念のため、睡眠時無呼吸症候群(SAS)について簡単におさらいしておきましょう。SASは、睡眠中に呼吸が一時的に止まったり、浅くなったりする状態が繰り返される病気です。

代表的な症状には、

  • 大きないびき(特に、止まった後に大きな呼吸で再開するいびき)
  • 日中の強い眠気や倦怠感
  • 起床時の頭痛
  • 夜間の頻尿
  • 集中力・記憶力の低下

などがあります。睡眠中のことなので、ご自身では気づきにくく、ご家族にいびきや無呼吸を指摘されて初めて受診される方も多くいらっしゃいます。

なぜ睡眠時無呼吸が糖尿病リスクを高めるのか?そのメカニズム

では、なぜ夜間の呼吸の問題が、血糖値のコントロールに影響を与えるのでしょうか? SASが糖尿病リスクを高めるメカニズムは、主に以下の点が挙げられます。

  1. 低酸素状態が引き起こす「血糖値を上げるホルモン」の増加 睡眠中に呼吸が止まると、体は酸素不足(低酸素状態)に陥ります。これに対応するため、体は危機管理モードに入り、交感神経を活発にします。交感神経が優位になると、血糖値を上昇させる作用のあるホルモン、例えばアドレナリン(カテコールアミンの一種)やコルチゾール(ストレスホルモン)などの分泌が促進されます。SASの方は、この状態が一晩に何度も繰り返されるため、血糖値が上がりやすい体内環境になってしまうのです。
  2. 「インスリン抵抗性」の増大 インスリンは、血液中の糖(ブドウ糖)を細胞に取り込ませ、血糖値を下げる働きを持つ重要なホルモンです。しかし、SASによる慢性的な低酸素状態や、それに伴う体内の炎症反応、そして交感神経の過剰な興奮は、このインスリンの効き目を悪くしてしまいます。これを「インスリン抵抗性」と呼びます。インスリンが効きにくくなると、膵臓はより多くのインスリンを分泌しようとしますが、それでも血糖値を十分に下げることができなくなり、結果として高血糖状態が続き、糖尿病の発症や悪化につながります。
  3. 睡眠の質の低下とストレス SASの方は、無呼吸によって脳が覚醒(本人は覚えていないことが多い微小覚醒)を繰り返し、深い睡眠が妨げられます。このような睡眠の断片化は、体のストレス反応を引き起こし、前述のコルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を増加させます。ストレスホルモンはインスリンの働きを妨げるため、これも血糖コントロールを悪化させる一因となります。

これらの要因が複合的に作用することで、SASはインスリン抵抗性を増大させ、血糖値を上昇させやすい体質を作り出し、糖尿病の発症リスクを高めます。また、すでに糖尿病と診断されている方にとっては、血糖コントロールをより困難にする要因となるのです。

SASと糖尿病、「負の連鎖」に注意!

さらに注意が必要なのは、SASと糖尿病は互いに悪影響を及ぼし合い、「負の連鎖」を生み出す可能性がある点です。

  • SAS → 糖尿病リスク↑ (これまで説明した通り)
  • 糖尿病 (特に肥満を伴う場合) → SASリスク↑

糖尿病、特に2型糖尿病の患者さんの多くは、肥満を合併しています。肥満、特に首周りの脂肪の蓄積は、上気道(空気の通り道)を狭め、SASを発症・悪化させる原因となります。

つまり、SASが糖尿病を悪化させ、糖尿病(肥満)がSASを悪化させるという悪循環に陥りやすいのです。そして、この両方を合併している状態は、心筋梗塞や脳卒中といった深刻な心血管疾患のリスクを飛躍的に高めることが分かっています。

糖尿病予防・改善のためにできるSAS対策とは?

もしあなたが糖尿病をお持ちで、かつ「いびきが大きい」「日中に強い眠気がある」などのSASが疑われる症状がある場合、SASの検査と治療を検討することが、血糖コントロール改善の鍵となるかもしれません。

SASの最も標準的な治療法であるCPAP(シーパップ)療法は、睡眠中の無呼吸や低酸素状態を効果的に改善します。これにより、

  • 交感神経の過剰な興奮が抑えられる
  • 低酸素による炎症反応が軽減される
  • 睡眠の質が向上し、ストレスホルモンの分泌が正常化に近づく

といった効果が期待でき、結果としてインスリン抵抗性の改善につながる可能性があります。実際に、CPAP治療によって血糖コントロールが改善したという報告は多くあります。

もちろん、糖尿病治療の基本である食事療法運動療法、そしてSASの改善にもつながる減量は、両方の疾患を持つ方にとって非常に重要です。禁煙も、血流改善や炎症抑制の観点から強く推奨されます。

糖尿病の治療と並行してSASの治療に取り組むことで、より良い血糖コントロールを目指し、将来の合併症リスクを低減させることが期待できるのです。

最後に:糖尿病の方、血糖値が気になる方はSAS検査もご検討を

糖尿病と診断されている方、あるいは健康診断などで血糖値が高めだと指摘された方で、もし「大きないびき」「日中の強い眠気」「夜間の頻尿」「起床時のだるさ」といった症状に心当たりがあれば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併している可能性を疑ってみる必要があります。

SASは、ご自身やご家族だけでは判断が難しい病気です。「たかがいびき」と放置せず、専門医に相談し、適切な検査を受けることが大切です。SASを早期に発見し治療を開始することは、糖尿病のより良い管理、そして心筋梗塞や脳卒中といった深刻な合併症の予防に繋がります。

当クリニックでは、鹿児島市にお住まいの皆様の健康をサポートするため、糖尿病の管理はもちろん、睡眠時無呼吸症候群の検査・治療にも力を入れています。気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。お電話またはウェブサイトからご予約いただけます。

より良い血糖コントロールを目指し、健康な未来のために、私たちと一緒に取り組んでいきましょう。

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